世界に魔物がいた頃・・。
その森にも恐ろしい魔物が沢山棲んでいました。
夜、人間がこの森に入ることは大変危険でした。
魔物は夜歩き食料を探すものが多いからです。
もう何人もの人間が、この森から戻っていませんでした。
家の扉の隙間から顔を出して、シャーリーは目前に広がる森を見ました。
食料が尽き、彼女の子供たちは今にも飢死にしてしまいそうでした。
そして彼女も空腹でした。
もう何日も前の朝早く、シャーリーの夫は食べ物を探しに森の中へ出かけ、そして帰ってきませんでした。
彼女はもう夫のことは諦めかけていました。これからは彼女が自分と子供たちの食べ物を探してこなくてはなりません。
せめて、夜が明けるまで待とうかと思いましたが、空腹でグッタリした子供たちを見ていると、一刻も早く食べ物を取ってこなくてはならないと思い、シャーリーは身支度を整え暗い森へ入る決意をしました。
木々の隙間からこぼれる星明りを頼りに進んでいくと、遠くにチラチラと揺れる灯りが見えました。
松明かランプのようです。
魔物は火を使わない・・だとしたら、あそこに人間がいるのかしら? もしかすると・・
シャーリーは逸る気持ちを抑えながら、できるだけ足音をたてないように注意深くそちらの方へと歩を進めました。
灯火の正体がわかる距離にまで近づいたとき、彼女は一瞬の喜びとその後の戦慄に心を引き裂かれそうになりました。
そこにいたのは、全身血まみれになりながらも食料の入ったカゴをしっかりと手に握りしめた男と、それと向き合うようにして今にも飛び掛らんとしている一つ目の大きな魔物でした。
魔物の右肩にも鋭い銛のようなものが打ち込まれており、その傷口からドクドクと紫色の血が流れていました。
(あなた・・!)
その時シャーリーは、夫の名を叫びたい衝動を抑えながら、昔祖母から聞いた話を思い出していました。
人間は、魔物に出会ったら決して助からない・・
彼女はじっと息を潜めて、成り行きを見守りました。
そして、祖母の言ったことはやはり正しかったのです。次の瞬間、魔物の腕が空を薙ぎ、夜の森に哀れな生首が舞いました・・
「あなた・・!」
今度こそ、シャーリーは思わず声をあげていました。
魔物がそれに気がつき、クルリと体を彼女の方へ向けました。
そして、興奮冷めやらぬ息遣いのまま、ゆっくりと近づいてきました・・
シャーリーはこの後なんとか生き延びることができたのですが、それが何故かを説明する上で欠かせない重要なキーワードを漢字2文字でお答えください。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。
【解説】
A.魔物
「シャーリー・・なぜ、こんな場所に・・?」
シャーリーの目の前で立ち止まった魔物は、低く優しい声でそう話しかけてきた。
「あなたがなかなか戻らないから・・私が食べ物を探しにきたの・・」
巨体の魔物が申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ごめん、なかなか獲物に出会えなくてね・・手ぶらで帰るわけにもいかなくて、ずっと森の中を歩き回ってたんだ。でも、その甲斐あってホラ、美味しそうな人間を狩るのに成功した。幸運だったよ。君も大好物だろ?」
「そうね、これで家族全員『生き延びる』ことができるわ。子供たちが待っている・・さあ、お家に帰りましょう。」
シャーリーは、その美しい一つ目を細めると幸せそうに微笑んだ。