週刊誌の記者が古びた寺を訪れた。目的は本堂に納められている『猫菩薩』という仏像の取材。
『よう来た。参拝者に幸福を招く猫菩薩、是非世に知らしめてくだされ』
『はぁ・・』
寂れた雰囲気を持つ住職に案内され、記者は曖昧な返事を返す。
『ここが、本堂じゃ』
『おお!!』
扉を開くと、記者は思わず感嘆の声をあげた。そこには、法衣に身を包む神々しい立ち姿の人身猫頭仏がズラリと何列にも並んでいた。
『なるほど! それで猫菩薩! それにしても、こんなに沢山あるとは。いや、壮観!』
記者は、興奮のままカメラのシャッターを切りまくった。
『うんにゃ、猫菩薩は一体。残りは全部、わしが本物を真似て彫ったイミテイション』
『? 百以上はありそうですが・・』
『本物には、猫を引き寄せる力があってのぅ。その足元で猫たちは皆幸福そうに寝返りをうつ。姿形はそっくりでも、その神通力が伴わなければ意味がないと思い、この50年間ひたすら彫り続けたのじゃ』
記者は住職の言葉に不思議な感動を覚えた。木でできた仏像が、猫ばかりか一人の人間をもここまで心酔させるとは・・
『しかし、じゃ』
『はい?』
『数年前にカガク調査とやらで、猫たちがああなるのは像がマタタビの木で出来ていたからだとワカった。あーダマされた』
俺もダマされた、感動を返せ。
『あ~もう、では住職、とにかくこの中の一体は本物なんですね? どれです?』
『自分で探してごらんなされ』
『なんで・・!?』
『フフフ・・猫たちはダマせなくとも人間ならいざ知らん。なにアソビじゃよ、ほれ、見事探し出してみい』
くそ・・厄介なことを・・待てよ・・猫菩薩はマタタビで出来ているといったな、なら・・
『ただし、じゃ。猫を連れてくるのはダメ。それでは勝負にならんし、面白くないからのぅ。お主の眼力で探すのじゃ。まぁ、そうしたくても出来ぬよう、ここいらの猫どもは皆とっ捕まえて寺の一廓に閉じ込めたがな、イーッヒッヒ!』
イッヒッヒってあんた・・いつから勝負に? ただのヒマ人かこの住職・・しかし、猫に嗅ぎ当てさせる作戦がダメとなると・・
考え込みそうになった記者だったが、ふとあることに気がつく。
・・そうだ、本物なら『あれ』の数は偽者よりもきっと・・
果たして、記者の予想が的中し、あっさりと本物は見つかった。記者が本物の猫菩薩を探す手がかりにした『あれ』とは何でしょうか? 漢字で表せば2文字の言葉ですが、それをひらがな4文字で入力してください。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。
【解説】
A.つめあと
記者は、仏像の足元に注目しながら歩を進めていった。途中、何度か立ち止まりながら本堂を一回りする。
『わかりましたよ、これですね?』
記者は、一体の菩薩像を指差すとそう言い切った。
『ムム! なぜワカった? よもやお主、釈迦の生まれ変わりか!?』
なんでだ・・、飛躍し過ぎだっつーの・・
記者は、もうこの取材やめて帰ろうかなーと考えながら、本物の猫菩薩のすねのあたりに無数に刻まれた猫の爪痕を眺めた。
マタタビに酔っ払った猫たちは、気持ちよく寝返りをうった後は、こともあろうにこの仏像で自慢の爪を研いだらしい。猫たちにとってありがたいのは、あくまでも『木』としての猫菩薩なようで、無差別に猫を引きつけてしまうこの像が、他の偽物なんかよりはるかに被害甚大なのは、至極当然のことなのだ。