朝からひどく気分が悪くて、水しか喉を通らなかった。
足を伸ばすと少しむくんでしびれてる。
すっかり大きくなったお腹をなでながら、少しは何か栄養のあるもの食べないといけないなーと思う。
冷蔵庫には調味料しか入ってない。何か買いに行かないと・・・。独り身だから自分が動かないと誰も助けてくれない。
このまま倒れてしまったら誰にも気づかれず孤独死もあるかもしれない・・・。
自分の妄想にぞっと身震いすると、ようやく身体を起こした。
うなじに貼りついた長い髪をまとめて、顔を洗って身支度をする。
シャワーを浴びる元気もない。
下着を替えてブラもつけ、ゆったりした服を着る。
靴下を履くのにもお腹が大きくて一苦労だ。
バッグから財布を取り出してお金が入ってるか確認する。
母から貰ったお守りの鈴が音を立てた。
(・・・念のため。)注射器をしっかり布でくるむとバッグに詰め込む。
「すこしだけ」
タバコに火をつけてふかした。
病院の先生にはきつく止められていたけれど、どうやってもやめられなかった。
本数は減らしたが、通院の無い日にこっそり吸っている。
みんないったいどうやって止めるんだろう?
誰かと一緒になってたらまた違ったのかな?
ふと、棚の上の写真立てを見る。1年前に付き合っていた人と撮ったものだ。
ほっそりとした小柄な女性に背の高い男性が腕をまわして優しい笑顔で写っている。
この頃はもちろんお腹も大きくなかった。
この人とは別れてしまったが、写真は捨てられずにいる。今はどうしているんだろう・・・。
帽子をかぶるとお気に入りのゼブラ柄のスニーカーを履き、バッグを肩にかけて家を出た。
考え事をしながら歩いていた。
交差点で車が迫ってくるのに気づいた時にはもう遅かった。
気づくと病院のベッドの上だった。
病院着で点滴をつけられていた。
見回すとベッドの横のカゴに服と手荷物が綺麗に入れられていた。
(もしかしてアレを見られた!?)私は慌てふためいて青ざめた。
バッグは口が大きく開いていて中身がのぞいていた。
ドアをノックする音で顔を上げると看護師と警察官が立っていた。
「具合はどうですか?このたびは大変でしたね。バッグを確認させていただきました。」
有無を言わせず警官が続ける。
「少々、お話を伺いたいのですが・・・」
私が他人から隠したかったものは何でしょう?
3文字以内で問題文から抜き出してください。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。
【回答】
A.ブラ
【その後】
「身元を確認するために免許証を確認させていただきました。」
「はぁ」
「事故が起きたときの状況をうかがっても大丈夫ですか?」
彼女と別れてからというもの、不摂生を続け、すっかり太って糖尿病まで患ってしまった。
家を出る前、インスリンの注射器をバッグに入れて出かけた。
事故はそうとう派手なもので、私が目覚めるまでに時間がかかったらしい。
警官はそんな私の様子を確認しに来たところ、ちょうど目覚めたので事故の話をした。
着衣は病院着に替えられていた。胸のブラも外されていた。
太ってからというもの胸も膨らんできて友人にからかわれてから、外出時には男性用のブラジャーを付けるようになった。
つけてみると肉がくっついたり、すれたりしなくてラクだった。
でも、さすがにつけているのがばれると気恥ずかしい。
(看護師さんたちに変な噂されてたら嫌だなー・・・)
これからの入院生活を考えて私はすごくブルーになった。